気に食わねェ……。
いわずと知れたあの新入りの、ジョルノの野郎が気に食わねェ。
それに……今夜のブチャラティは、さらに…気に食わねェ。
エレガントな黒のヴェネツィアン・レースの胸もとに、オレは腹立ちまじりに指を滑り込ませた。
「………ふ…」
両腕をシーツに投げ出したまま、ブチャラティは義務的にため息を漏らした。
あのジョルノの野郎をオレたちの所に連れて来た時から、ブチャラティの様子が、どこかおかしい。
週に一度、こうしてネアポリス郊外のブチャラティの家で、ふたりきりの夜を過ごすことは、オレたちの間での長い取り決めだった。
だが……今夜のブチャラティは…。オレといるのに、オレを見ていないッ…!
時々ブチャラティが、ナランチャのヤツをも、このベッドにあげていることは知っている。
だが…それとは明らかに違う、このブチャラティの様子は!
(クソッ…!あのジョルノとかいうクソガキめ…ブチャラティに何をしやがったッ!)
歯軋りしながらオレは、ブチャラティのジッパーを乱暴におろした。
ナランチャのことはいい…。
あいつがブチャラティのベッドにもぐりこむのは、純粋な肉親的愛情の延長のようなモノだから。
ナランチャがそういった愛情に飢えていることをよく知っているからこそ、優しいブチャラティは、ああいったわかりやすい方法でもって、時々あいつを愛してやっている。
――…まあそれは……オレに対する関係でも、同じことだが…な。
おれは知っている。生きる意味を見失ったこのオレ
に、束の間感情を吐露する場を与えるために、ブチャラティがあえて、その身をオレにまかせてくれていることを…。
ブチャラティは、オレたちみんなのモノ…。
オレたちチームのみんなを、平等に愛してくれていた。
………だから、よかった。
しかし!
……あのジョルノだけは明らかに、違う。
ブチャラティの、ジョルノに対するときに見せる、あの生き生きと希望に満ちたまなざしは……あれは一体何だッ!?
あれは、平等だとか同情だとか…そんなモノではなかった!もっと…別の………。
…ブチャラティよ……。おまえはジョルノに……何を見た!?
「ブチャラティ…なにを…考えている」
苛立ちを押さえきれず、おれは荒々しいしぐさで白い羽根枕の底深く、ブチャラティを沈めこんだ。ブチャラティの切り揃えられた黒髪が、幾重にも乱れて枕の上にこぼれた。
ブチャラティは物憂げな表情で、黙っておれ手を振り払った。
「余計なことは詮索しなくていい、アバッキオ……言い争いをするために、ここに来たわけではないだろう」
冷静なブチャラティの前に、オレは黙って従うしかなかった。
いつもこうだ。
ブチャラティのカラダを組み敷くことはできても、おれは決してブチャラティには逆らえない。割り切れぬ思いのまま、ブチャラティの上に重なった。
「…あッ……」
どこか気乗りしないその態度とは裏腹に、ブチャラティの中は驚くほどに柔軟に熟れきった感触で、オレを受け容れた。
ブチャラティが枕に目を伏せたまま、呟いた。
「アバッキオ……今夜は…後ろからにしてほしいんだが」
「後ろからだって…?オレが入る事を?…グラッツェ!引きずりこまれてやるぜ!」
言われるがまま、おれはブチャラティをうつぶせに抱きとり、動かした。
なぜ、正面からではダメなのか…は、今は考えないことにした。
頭脳明晰で、判断力も指導力も人並みはずれたこのブチャラティが、同い齢のオレにこうされているときにだけ、微妙な隙を見せる。
そのギャップに、たまらなく眩惑されるおれがいる。
「おまえの感じるのは、ココだけか?え?」
ブチャラティの頬を舐めとりながら、オレは腰下に腕をまわし、ブチャラティのそれを刺激した。
「勃ちな?来いよ……勃ってイッて来な!」
「う………」
相変わらずブチャラティは無口だったが、カラダのほうは正直で、オレの愛撫に、小刻みに震えた。
黒髪を散らして唇を黙って噛みしめるそのサマが、男とは思えないほどに妖しく
、オレはますますブチャラティに惹きつけられた。
ブチャラティ…おまえをのし上がらせるためになら、オレは…命をかけてもいい。
そのためにはどんな障碍だろうが、必ず排除してやる!
なあブチャラティ…。
おまえは…オレがジョルノを嫌うのを、単なる嫉妬と思っているのだろう……?
だが、そうではない。
あの野郎を見た瞬間、おれは直感的に悟っちまった!
あの新入りのジョルノの野郎は、おまえの心だけでなく、いずれおまえの手に入れるべき栄光をも奪うつもりでいる…。そんな不遜な匂いがする。
それが、オレには許せねえ。
たとえ、おまえ自身が…それを良しとしたとしても…だッ!
オレは汚れ、
泥にまみれてもいい……。
だが…
栄光(グローリア)は……全て、おまえの手にッ……!
ブチャラティの耳もとに、おれは囁いた。
「『おまえ』だけは……絶対に……汚さねえ…誇りと面子にかけて…『ブチャラティ』おまえだけは……このレオーネ・アバッキオが守る」
「フフ……グラッツェ…アバッキオ」
今晩初めて、ブチャラティの片頬に、自然な微笑がにじんだ。
「どうかしたのかよ……早くイけよ……オレでは満足しねーのか!?」
嬉しくなったオレは、少々ヒガミっぽい口上で、ブチャラティにあり余る愛しさをぶつけた。
オレってヤツはいつも、ストレートにキモチを表現するのが、苦手だ。
…そんなオレの孤独を理解できるのは、この世であんたひとりだけだ…ブチャラティ。
オレは半ば無理矢理、アバッキオを仰向けにして、正面からもう一度激しく攻めた。
「ッ…アバッキオ…後ろから…と…いったはずだが」
諦めたような表情を浮かべ、咎めるブチャラティを、おれは構わず抱きしめた。
「イク時によォ〜…あんたの顔がどうしても見たかったんだブチャラティ……
オレはもともとよォ〜〜行く場所や居場所なんてどこにもなかった男だ…この国の社会からはじき出されてよォ―――オレの落ちつける所は………ブチャラティあんたといっしょの時だけだ……」
そうさ…あんたは、オレが昔死なせてしまった、あの優しい先輩にどこか似てる……。
こうしてあんたを愛している時だけ、おれは、失っちまった素直で純粋な、昔のレオーネ・アバッキオに戻れるんだ…。
あんたが、オレの求めるほどには、オレに愛情を振り向けてくれなくとも、そんなことは…気にしちゃあいけねーことだよなァ……。あんたが今、このオレの腕の中にいるだけで、良しとしなきゃあなァ……。
ブチャラティよ…オレはどこまでも、あんたについてくぜ…。
死んだように目をつぶるブチャラティの顔立ちを、しっかりとムーディー・ブルースに焼きつけながら
、オレは愛するこの男に、思いのたけを捧げた。
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