承太郎――…。
…君は今……どこにいますか……?
流れゆくエジプトの蒼い風に、ぼくは…閉ざされた瞳を投げかけた。
ねえ承太郎……。
君と出逢ってから、もう一月と十日が過ぎた…。
――君と綴った鮮烈な旅路の記憶が、遠い日の出来事のように…ぼくは今……不思議なほどの静けさに包まれている。
運命が束の間許してくれた、静かなるこの安らぎの中で……ぼくはただ……君を想う。
初めてなんだ…承太郎…こんな気持ち。
狂おしい夜の情熱や、星屑のような甘いときめき…。
今、この胸を満たしているのは…それすらをも一足飛びにとび超えた……ただひたすらに深く澄みとおった…君への想いだ。
過去未来永劫大いなる時の流れの中、ただひとり…君という人間
に出逢わせてくれたその奇蹟(スタンド)へ…ぼくは…心よりの感謝を捧げたい。
人は生まれ…そして死ぬ。
悠久不滅なるこの宇宙の大原則の中にあって、ぼくは今……君という人間に巡り逢えた奇蹟…その意味を…全身全霊で受けとめている。
ぼくがこの世に生まれおちた…その意味を――。
(――花京…院……)
……その響きの一音一音が…今更ながら胸をしめつける。
ぬけるように蒼いエジプトの空の下、あいつは静かに微笑っていた…少しだけ色褪せはじめた一枚のポートレイトの中で。
花京院…おまえが逝ってちょうど一年がたつ。
そして、おれは知った……時のもたらす哀しみという名の感情を。
――おまえという人間と出逢い魅かれあい…魂の限りに愛しつくせたことの……はかりしれない倖せを。
うたかたの夢のごとく過ぎ去った、宝石のようなあの日々が…哀切な傷みをもって鮮やかにおれの胸をよぎる。
だが花京院……17のまま時を止めたおまえの散りざまを……おれは悲劇だとは思わねえ。
なぜなら花京院よ……。
この胸に寄り添うおまえの影は、今もなお…優しく澄んだその瞳をふせて……ものやわらかに微笑んでいるから――。 |